ランドスケープアーキテクチュア

ランドスケープアーキテクチュア

環境計画とランドスケープデザイン

ジョン・O.サイモンズ、バリー・W.スターク/著 都田 徹+Team9/訳

19,000円(+税10%)

ISBN:9784306072763

体裁:A4変・420頁

刊行:2010年7月

土地利用計画の過程をわかりやすく、簡潔に実用的に概説する。ランドスケープアーキテクチュアの計画やデザインの原理を、文章やスケッチ、専門家の言葉を通して解説する。地球という星により適合して暮らすためのガイドブックである。

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  • プロローグ
  • 1:人々の棲む場所 2:気候 3:土地 4:水 5:植生 6:ランドスケープ特性 7:地形学 8:サイトプランニング 9:敷地開発 10:ランドスケープにおける植裁 11:敷地のボリューム 12:ランドスケープの視覚的側面 13:動線 14:建造物 15:住居 16:地域計画 17:アーバンデザイン 18:成長管理 19:地域スケールのランドスケープ 20:計画された環境 21:展望追想
  • 索引、訳者あとがき

地球をデザインするひとのための本

進士五十八

読者は、ランドスケープアーキテクチュアという専門分野を知らないかもしれない。

アーキテクチュアを造家学と訳したのに対しランドスケープアーキテクチュアは造園学と訳された。韓国では造景学、中国では風景園林学と訳されている。景観法(2004)もでき徐々に市民の関心も高まっている景観や風景の保全と創出を目指す技術学術であり芸術である。造園の文字の制約もあって庭園や公園、緑化植栽のイメージが強いが、本書のサブタイトルどおりで、土地自然を基調とする景観計画、敷地計画、造園設計を一貫して実践する専門的職能をランドスケープアーキテクトといっている。

本書の表紙はニューヨーク、セントラルパークの全景で飾られている。この公園の設計者F.L.オルムステッド(1822-1903)が、それまで3000年の歴史を積み重ねてきた国王や貴族のための造園技術を、市民社会のアメニティ技術へと昇華すべく、自らをランドスケープアーキテクト第1号と名のったのである。それから100年を過ぎた1961年、本書の初版が刊行され、さらに50年近くを経て共著者スタークの手で大幅改訂の第4版(2006)と成る。

評者は学生時代、原著と鹿島研究所出版会の久保貞訳を目にした感激をいまも憶えている。それまで余りにも実際的な造園書しか知らなかったので、それとはまったくちがう広く深いランドスケープの哲学を感じたからである。かといって難解ではない。人間、気候、土地、水、植生、地形、敷地、スペース、眺め、動線、建物、地域、都市、環境などランドスケープの要素、構成、デザインのすべてにわたり、それをどのように考えればよいのか、それは何故か、どう扱えばよいか等々実に具体的にたくさんの基本と実際を教えてくれる。まちがいなくランドスケープアーキテクチュアのバイブルであると実感したのである。

第4版の本書は、スケッチこそサイモンズの懐かしいタッチが残るが、初版久保訳本が244頁であったのに4版都田訳本は399頁と大幅に追加されている。現在の学生諸君によくわかるように、質の高い世界中のランドスケープ作品が各章に適切に選ばれ、またコンピュータアプリケーションやエコロジー管理など現代的テーマについても詳解している。

著者J.O.サイモンズ(1913-2005)は、ミシガン州立大学で、さらにハーバード大学大学院でランドスケープアーキテクチュアを修め、後ASLA(アメリカ・ランドスケープ・アーキテクツ協会)の会長をもつとめた20世紀最高のランドスケープの権威で、すぐれたデザイナー、教育者でもあった。

サイモンズの言い方だと本書は“人間の飼い方の本”であり、“地球という星により適合してくらすためのガイドブック”ということになる。「本来あるべき姿としての地球と、人間、建築、人間の活動、そして人々のコミュニティとの間に調和のとれた関係を築くこと」を、まさに地球社会のデザイナーを目指す若者に読んで欲しい最高の著書である。

これまでのデザイナーや建築家は、モノとスペースを完全にする努力はおしまなかった。しかし、自然の大地や場所、そして水、緑、生き物の循環と共生への関心は決して十分であるとは言えない。2010年は国際生物多様性年、2011年は国際森林年。そろそろ地球的スケールで自然を意識したデザインにチャレンジして欲しい。

(しんじ・いそや/造園家、東京農業大学名誉教授・元学長、福井県立大学名誉教授・前学長)

[初出:『SD2010』鹿島出版会, 2010]