子どもまちづくり型録

子どもまちづくり型録

木下勇・寺田光成/編著、松本暢子・三輪律江・吉永真理/共著

2,400円(+税10%)

ISBN:9784306073647

体裁:A5変型・248頁

刊行:2023年6月

現在、子どもの遊び環境はコロナ禍も加わり、人と触れ合う機会や外遊びが減り、大きく変化してきている。そうしたなかで、子ども参画のまちづくりに取り組む執筆陣が、子どもの育ちゆく「場所」を社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と捉え、108個の「パタン」でイラスト豊富に示す。

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  • まえがき
  • 本書の使い方
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  • 第1部 子どもの育ちと社会関係資本
  • 1 子どもの育ちを支える地域社会の変化
  • 2 社会関係資本の考え方を改めて問い直す
  • 3 子どもが育つ社会関係資本の指標
  • 4 そして、子どもまちづくり型録へ
  •  
  • 第2部
  • 子どもまちづくり型録108
  • 考え 001-008
  • いえ 009-032
  • みち 033-047
  • まち 048-108
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  • あとがき
  • プロフィール

資本主義社会が失った「社会性」を映す実践集

多木陽介

本書は、1996年の第2回国連人間居住会議で「子どもにやさしいまちづくり」のプログラムが始まった際の「子どもが幸せであるかどうかが、社会が健全でうまくいっているかどうかの証」というスローガンに触れるところから始まっているが、これこそは正論である。そして、著者たちは、日本および世界各国で行われている子どもたちの成長に適したまちづくりのための提案を調査して、それを本編では100余りの類型にまとめている。おそらくそこに至るまでには相当な調査が必要だったと想像できる。本書は、今後まちづくりを考える人々のガイド役になる手軽な事例集として編集され、実際その役には立つと思うと同時に、著者たちの研究をもとにすると、現代社会を考える上での非常に具体的な観察から始まる見事な社会学的研究にも発展したであろうと想像しながら読ませてもらった。

本書は、提案の適用される次元に沿って、「考え」、「いえ」、「みち」、「まち」という形でわかりやすく構成されているが、この構成とは別にいくつかの重要なテーマが全体から浮き上がってくる。それらの多くは、子どもたちにだけ関わるものではなく、むしろ現代社会全体に関わるかなり深刻な問題である(子どもはいつも大人のツケを払わされている)。例えば、いくつかの事例で子どもの成長にとっての家庭の重要さが主張される。しかし、逆を言えば、現代社会の家庭の多くにおいては、父親はほぼ不在、子は塾通いで家族全員がしばしば「孤食」に甘んじている。それが資本主義の圧力の強烈な日本のような国の家庭の典型的な姿なのだ。また、地域社会が適度な距離で近隣の子どもたちに目を注ぐことで、親だけではなく、地域社会の大人たちが子どもたちの成長を見守り、教え、育てる体制にも注目しているが(その指摘自体は画期的だと思う)、現代日本の都市部でこのような「村が子どもを育てる」状況はどこにあるだろうか。

そして、子どもたちの「居場所」の提案も繰り返し出てくるが、実際学校にも社会にも家庭にも居場所の見出せない子どもたちが膨大な数いることは、日本社会の最大の問題の一つである。どの提案の裏にも、高度資本主義の強風にさらされ恐ろしいほどの孤独の中に分断された人間(特に子ども)の姿が浮き上がってくる。その意味で、本書に掲載された提案事例の数々は、どれもがまちづくりを思い立つ者にとっての優れたヒントになると同時に、現代社会の直面している本当に深刻な問題の一つ一つを考える貴重な資料としても読むことができる。

(たき・ようすけ/批評家・アーティスト)

[初出:『SD2023』鹿島出版会, 2023]