まちづくりを動かす図解の力。
まちづくりにおける図的表現は、まちづくりの本質的な意味と密接に関係している——。
厳選された150点を超す図版を掲載し、まちづくりの専門家・市民のために、蓄積された図解を方法として整理し、技術として体系化する。
*この書籍は「コデックス製本」という、書籍本体には背表紙のつかない製本となります。
本の開きがとても良くノド元まで開くため、手で押さえなくても開いたままの状態を保つことができ、図録など見開きページの多い本に適した製本方法です。

まちづくり図解
ISBN:9784306073371
体裁:B5・178頁(コデックス製本)
刊行:2017年7月
- 序章
- まちづくり図解とは 佐藤滋
- 本書の構成—まちづくり図解と思考プロセス 内田奈芳美
- 1章 都市の構成解読と空間デザイン
- 2章 まちの事象の可視化と共有
- 3章 将来像の実現に向けたシナリオ・メイキング
- 4章 まちづくりを動かすアクションリサーチ
- 5章 地域マネジメントとまちづくり市民事業
- 6章 事例集現代的課題に向けた戦略的図解によるまちづくりの実践
- 終章 図解の拡張 佐藤滋
まちづくりの未来に何を見るか
太田浩史
早稲田大学佐藤滋研究室および都市・地域研究所の35年にわたる活動を網羅した2冊。『まちづくり教書』では、まちづくりの展開史にその活動が重ね合わせられ、現状分析、手法論、今後の展望が語られる。『まちづくり図解』は活動で生まれた多数の図版により、空間操作、組織論、シナリオ・メイキングなどが詳しく説かれる。刊行は『教書』の方が早いが、『図解』から読み進める方がよいと思った。歩いたことのない都市、現場を見ていないプロジェクトはイメージしにくいので、『図解』の視覚情報を頭に入れて、それを頼りに『教書』を読み進めた方が理解が早いと思うからである。欲をいえば、佐藤滋+城下町都市研究体による『[新版]図説 城下町都市』(鹿島出版会、2015)にも目を通しておきたい。城下町研究という背景が、いかに佐藤研のまちづくり論を際立たせているかが分かるからである。
背景があった方がよいという意味では、まちづくりをこれから学ぶ初学者よりも、ある程度まちづくりの経験を重ね、自分の立ち位置、次の展開を探ろうとする人に、本書はより役立つだろうと思われた。福島県での復興まちづくりがひと段落した私がそうだったのだが、できていなかったこと、足りなかったことに色々と気付かされる。それと同時に、意外とできていたこと、その先にある可能性についても、ヒントが得られる。そんな読後感が得られるのは、本書が「まちづくり」という運動に対して、自省的な構えを持っているからである。何ができたのか。何が未達成なのか。そして今後30年に向け、まちづくりはどう変わるべきか。まちづくりを再定義するべく、佐藤滋を中心とした35人が自らの実践を振り返る。その熱気ある論考に、読者も次第に引き込まれてしまう。執筆陣の共同作業に誘われるような雰囲気は、きっと佐藤研のまちづくりの現場を映しているのだろう。
俯瞰と構造化
一方で考えさせられたのは、俯瞰的であることの意味である。本書はまちづくりの現状分析と再定義という目的を持っているから、状況はなるべく俯瞰的に捉えられ、大きなスケールの論理が浮上するよう論が組まれている。もともと、魚眼マップによる地域構成の把握、「山当て」による城下町の都市構造の解読、地域マネジメントの組織構成の図化など、俯瞰と構造化は佐藤研の研究の特徴といえるが、今回はそのスケールが特に大きく、まちづくりの展開そのものにも適用される。『教書』の終章で佐藤が述べる、地区レベルのまちづくりを連携し、重層的な活動を行う地域マネジメントに統合していくという展望がそれである。
この展望には、現在のまちづくりの活況が影響している。都市計画における住民参加の定着、NPO法の制定、コミュニティビジネスの浸透を経て、まちづくりを担う主体は増加し、多様化した。見渡せば、建築、都市計画だけではなく、アート、福祉、地域経済、情報デザインなどからアプローチが試みられ、それぞれがバザールのあちこちで軒を競い合うような混沌とした状況が生まれている。この状況に対して、バザールの「編集的統合」とマネジメントが呼びかけられるわけだが、ここは分かれ道だと私は思った。都市情報センターなど状況を俯瞰できる場をつくるところまでは同感なのだが、その整理・統合はしない方がよいと私は思う。今はまだ、次なる実験のために混沌を拡大させるべきだと考えるからだ。
むしろ建築・都市計画由来のまちづくりには、バザールの老舗として空間的実践をもっと展開していてほしい。佐藤が期待する「質の高い姿かたちと場所の生成」を実現する知見が、圧倒的に不足していると思うからである。特に歴史的景観を持たない地域、大街区化が進む都心部、港湾や河川まわりの空間はまだまだ質が低い。それは決して、これらに地域性がなかったり、トップダウンで計画が進められているからではなく、その場所に応じた空間再編の手法が乏しいからである。そう考えて、私は佐藤研の出身者たちと『建築設計資料集成・都市再生編』(丸善、2014)を出版したのだが、都市の基本寸法についての資料もないし、都市のメディアがないので、プロジェクトの発表図面も描かれていない。これでは知見を共有できるはずがない。私が眺めているのは、そんな泣きたくなる状況なのだが。
試される今後の実践
論考のなかで、実践の先細りについての懸念を抱いているものがあった。都市再生とまちづくりの外部で起こる「まちづくり未満」の地域において、小さな心地よい空間をつくり出せても、広域かつ長期的な問題を解くのは難しくなるだろうという饗庭伸による指摘である。これは同意である。ただ、きっと問題はさらに幅広い。饗庭は未完の都市計画道路の問題を挙げているが、「していないこと」の問題に加え、完成したのに沿道が衰退した広幅員道路、大街区化の結果、空き家化した大規模建築、整備したのに歯抜けとなった宅地など、「してきたこと」の問題も加わりつつあるからだ。たとえば城下町研究が示した都市の構造把握を、成長期の都市域の拡張、近年の市街地再開発など別の文脈をもつ都市に援用し、その再構築へとつなげられないか。佐藤研の35年の活動の先に、そんな作業を私は見た。
(おおた・ひろし/建築家、ヌーブ)
[初出:『SD2017』鹿島出版会, 2017]