空き地や空き家など遊休不動産を、公共的な役割を担いつつ自立性・持続性のある活動を行えるコミュニティの再生や活用の場に創り変える手法。
これまでの日本と海外のコミュニティ・アセットの流れを概観し、さらに発展しつつある国内各地の実情を紹介する。まだその方法論が確立しているとは言えないが、コミュニティ・アセットを実現してきたフロンティアたちの巧みな方法論を探る。
コミュニティ・アセットによる地域再生
空き家や遊休地の活用術
ISBN:9784306073654
体裁:A5・208頁
刊行:2023年9月
- はじめに
- 1章:コミュニティ・アセットに至るまでの道のり
- オープンスタジオNOPEの試み/シェアオフィスの黎明期/コミュニティ・アセットによる空き家再生へ、ほか
- 2章:アセット活用による地域再生の可能性
- コミュニティとは何か?/アセットとは何か?/地域再生における都市と建物、そしてコミュニティ/近隣地域の定義と近隣再生のスケール/既存ストックを活用したアセットによる再生、ほか
- 3章:アメリカやイギリスのアセット活用による再生手法
- アメリカにおけるCDCによる再生/イギリスにおけるDTによる再生アセットを活用した立地パタンとその再生手法、ほか
- 4章:日本のまちづくりにおけるアセットを活用した再生方法
- 日本におけるアセット活用とまちづくりの経緯/日本各地の8事例/日本の事例とCDC、DTの比較と考察
- 5章:全国のコミュニティ・アセットによる地域再生
- 民間資本によるコミュニティ・アセット/公共資本によるコミュニティ・アセット/非営利組織によるコミュニティ・アセット、ほか
- あとがき
中空のまとまりをつくる
饗庭 伸
本書には「コミュニティ・アセット」という新しい言葉が使われている。「コミュニティ」という言葉は、もう50年以上、日本人の中で使われ続けているが、融通無碍に使われ、時にぼんやりとしてしまうこの言葉に、筆者はビジネスの世界で使われている「アセット」という言葉を足し合わせる。初老のぼんやりとした輪郭をもった「コミュニティ」という言葉がちょっと若返り、なんだか新しい友達、新しい言葉の組み合わせをつくれそうな感じになるので、面白いものである。
都市をつくるときの私たちの言葉は、大変にぼんやりしている。巷に溢れかえっている都市計画の図書には「健幸」「SDGs」「賑わい」といった言葉が溢れているし、デベロッパーの新しい開発の方針も、初期のAIがつくったような言葉でつくられている。そして適当な言葉で目標を立てたら、あとはディテールをこねくり回したり、適当にワークショップをやったり、知り合いだけでしか通用しない言葉で議論をした気になって、空間をつくり出している。私たちはきちんとした言葉を使って都市の哲学を立ち上げ、他者と議論し、空間を組み立てることが苦手なのである。
日本は十分に安全で、法もしっかりとしているので、言葉に拘らなくとも空間をつくることができるし、大失敗することもない。しかし、皆がつくった一つ一つの空間が集合した時に、何だかとんでもなく間違えたものができてしまうかもしれない。例えば、素敵なリノベを積み重ねているうちに、いつの間にか、少し貧しい人たちの居場所がまちの中からなくなってしまうようなことである。
間違いを犯さないためにも、私たちは大きなぼんやりとした言葉から、ちょっと縮尺を落とし、解像度を上げた、言葉の群れをつくることを意識しないといけない。草の根、ボトムアップ、1/1のDIYにまで解像度を上げるのではない。ふわふわと飛んでいる言葉を、目線よりちょっと高い中空に集め、その目が届く範囲でまとまりをつくり出していくということである。
この本は、アッサンブラージュ=寄せ集めでつくられている。伝説のオープンスタジオNOPEから始まる筆者の実践が最初の部品であるが、そこから部品集めの旅はあちこちに飛んでいく。まちづくりの歴史、欧米の実践、日本中の実践から部品が集められ、組み合わされていく。その行為は、評者がいうところの「中空のまとまり」を仮組みしてみたということであり、それをつなぎとめているのが、コミュニティ・アセットという言葉である。
私たちに必要なことは、まずはこの言葉を「えいやっ」と信じ、筆者が組み上げた中空のまとまりに、いろいろな言葉や実践を付け加え、それを強固にしていくことである。そのことが、私たちの、来るべき「とんでもない間違い」を防ぐことにつながるのではないだろうか。
(あいば・しん/都市計画+まちづくり家、東京都立大学教授)
[初出:『SD2023』鹿島出版会, 2023]